遺言の種類が3種類(自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言)あることは、すでに「遺言の種類」のページで述べました。
ここではまず、皆様が遺言を書く場合に一番イメージしやすく、作成が簡単な自筆証書遺言の書き方について、ご説明いたします。
自筆証書遺言は、その名のとおり、遺言者が自ら遺言の全文を自書し、最後に署名・捺印することによって出来上がる遺言です。
自筆証書遺言は、自分で書けばよいので費用もかからず、いつでも書いて、また書き直せるというメリットがあります。
ただし、簡単に作成できるとはいえ、ただ、書けばよいというものではありません。
その遺言がきちんと法律的な効果をもつようにするには、いくつかの決まりごとをきちんと守って書く必要があります。
以下、その要点を見てみましょう。
自筆で書く必要があります
必ず、自分で筆をとり、全文を自分の手で書く必要があります。
ワープロ、タイプライター、自筆のコピーは認められません。
ビデオレターのように、録画して残すこともできません。
署名と捺印が必要です
署名に関しては、一応その人だとわかるものであればよいとされていますが(ペンネームなど)、後々の無用なトラブルを避けるためにも、きちんとフルネームで署名しましょう。
捺印に関しては、認印でも構いませんが、こちらも、出来る限り、実印で捺印されたほうがよいでしょう。
日付は必ず書きましょう
自筆証書遺言の最も大事なキーポイントになります。
必ず、年月日まで、きちんと書いてください。
遺言は何度でも書き直すことができ、日付の新しいものが有効とされるため、ここは非常に大事なところです。
日付を書くのを忘れていたり、「平成20年3月吉日」といった記載は遺言全体が無効になるので、注意しましょう。
人物をきちんと特定しましょう
ここでいう人物とは、遺言をする人と財産をもらう人の両方をさします。
例えば、太郎さんが遺言で息子の一郎さんに全財産を残したいと思った場合に、
「私は、一郎に全財産を相続させます」と書いても、これでは、第三者から見て「私」とは誰で、「一郎」とはどこの一郎さんなのかわからいので、この遺言は無効ということになります。
必ず、自分自身と財産をあげる人、また遺言執行者を定める場合はその人の、それぞれの「住所」「氏名」をきちんと書いてください。
ただし、戸籍謄本などで、遺言者との関係が分かる場合は、「妻○○に」や「長男○○に」でも構いませんが、その場合は「生年月日」を付け加えておくと、より良いでしょう。
モノの特定を正確にしましょう
特に、不動産の場合に必要となりますが、自分の自宅や保有している土地などを相続させる場合に、「私の自宅」や「○○町三丁目の土地」といった記載は避けましょう。
不動産の場合は、原則として、その不動産の登記簿謄本(登記事項証明書)とおりに、土地なら「所在」「地番」「地目」「地積」、建物なら「所在」「家屋番号」「種類」「構造」「床面積」をきちんと記載しましょう。
数量の特定を正確にしましょう
せっかく遺言を残しても、「財産は仲良く公平に分けるように」などと書かれていると、相続人はどのように分けたら良いのか、頭を悩ましてしまいます。
特に、不動産や株式の場合は大変です。
例えば、不動産がA土地、B土地とある場合に、「A土地とB土地を一郎と次郎に相続させる」と遺言で書かれていると、一郎と次郎が、それぞれどちらかの不動産をひとつずつもらえば良い・・・とはなりません。
この場合は、
A土地:一郎2分の1、次郎2分の1 B土地:一郎2分の1、次郎2分の1
という共有状態で相続することになってしまいます。
そうなると、この不動産を売却するときに、どちらか一人が反対すれば売却することも出来なくなってしまいます。
株式の場合も同じです。
遺言で「株式200株を一郎と次郎に相続させる」となっている場合に、現金の感覚で、一郎が100株、次郎が100株という風にもらえるわけではありません。
この場合は、1株ごとに一郎が2分の1、次郎が2分の1の共有状態になり、その数が200株あるということになります。
例えば、中小企業の自社株式を相続させる場合は、このように共有状態になってしまうと、二人が仲良くやっているときはよいのですが、仲が悪くなってしまうと、議決権の権利行使もできなくなってしまい、会社の運営上、非常にやっかいな状態に陥るので、注意してください。
訂正方法も決まりがあります
遺言を訂正する方法は、法律できちんと定められています。
まず、訂正する箇所を二本線で消し(消しても元の文字が判読できるようにしておく)、その訂正箇所に押印し、欄外または末尾に、「何行目、何文字削除、何文字加入」と記載し、署名しなければなりません。
この訂正方法に従わないと、遺言は変更がないものとして扱われます。
また、方式違反の訂正があった場合に、その訂正部分のみならず、場合によっては遺言全体が無効になってしまう場合があるので、間違った場合は、初めから書き直すのが無難です。