「父親が亡くなり、ふたを開けてみたら借金だらけだった」などというのは、比較的よくある話です。相続する場合はプラスの財産・マイナスの財産の両方を受け継がなければならず、遺産を超える多額の負債を抱え込むことにもなりかねません。
しかし、それを相続するかしないかは相続人の自由です。相続人には、次にあげる3つの選択肢があります。
■相続人の選択肢
①単純承認・・・無条件で相続する(プラスの財産もマイナスの財産もすべて引き継ぐ)
②限定承認・・・条件付で相続する(プラスの財産の限りでマイナス財産をを引き継ぐ)
③相続放棄・・・相続しない(プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がない)
単純承認
相続において、もっとも多いパターンです。
通常は、故人が亡くなったときに、普通に財産を引き継いで振り分けをし、相続税の申告があればするといった流れになると思われます。このような場合を「単純承認」といいます。
つまり、単純承認とは、特別な手続きなどすることのない、ごく一般的な相続のかたちです。
ただし、単純承認の場合は、プラスの財産もマイナスの財産もすべて引き継ぐことになるので、のちに思わぬトラブルになることもあります。
限定承認
この制度は、故人の残したプラス財産の限りにおいて、マイナス財産(借金)を払うというものです。
つまり、「プラス財産が3000万円あるが、借金はいくらあるかわからない。もし、3000万円の範囲内で借金が収まるのであれば、払ったあとの残った差額を財産として相続したい」という場合に利用できます。
逆に、実際に調べてみると借金が5000万円あったとしても、差額の2000万円は支払う必要はありません。
実は使い勝手の悪い限定承認
限定承認は、一見、とても都合がよく、相続人にとっては有り難い制度のように見えますが、実は、かなり手間と時間がかかります。
1.相続人全員が共同して限定承認の申し出をする必要がある。
例えば、相続人が5人いる場合は5人全員が限定承認をすることに賛成しないといけません。
※相続放棄の場合は、相続人が5人いる場合でも、1人だけ放棄するということができます。
2.故人が亡くなったことを知った日から3ヶ月以内にする必要がある。
3.相続財産を調査して、財産目録を作り、家庭裁判所に提出する必要がある。
4.相続財産管理人を裁判所に選任してもらう
通常、弁護士が選任されます。そして、管理費用に対して弁護士報酬(費用)を支払う必要があります。
5.限定承認の申し出をしたあとに、官報に公告をし、すでに分かっている債権者には催告をする必要がある。
官報に公告するとは
~相続人が故人の債権者をすでに知っている場合は、個別に「支払いを請求してください」と催告すればよいのですが、その他にも、相続人の知りえない債権者がいるかも知れません。
だから、その債権者のために、二ヶ月以上の期間、官報で「支払いを請求する人は名乗りでて下さい」と公告します。当然、公告費用がかかります。
6.債権者にはそれぞれ現金で配当するために、金銭がなければ不動産などを競売にかけて処分しなければならない。
ここでも、通常は弁護士(相続財産管理人)に配当の手続をしてもらうので、さらに弁護士報酬(費用)がかかります。
7.手続きが終わるまで、通常、半年ほどかかる。
結論としては、このような手間と時間をかけてもする意味がある → つまり、「プラス財産がマイナス財産(借金)よりかなり多い」というような場合でなければ、おすすめできません。
単純承認とどう違うの?
~プラス財産がマイナス財産(借金)よりかなり多ければ、普通に単純承認しても、差額を財産として相続できるのではないかという、疑問があるかも知れません。
ところが、限定承認の場合は、手続が終了すると、その後、債権者は相続人に支払いを請求することができないので、限定承認の手続きの完了とともに、相続人は一切の借金から開放されます。
単純承認の場合は、そのような保護がないので、相続人が知りえなかった故人の借金は、時効(通常10年)が成立するまで、消えずに残ったままになります。
相続放棄
マイナス財産がプラス財産より明らかに多い場合は、迷わずに相続放棄をしましょう。
プラス財産とマイナス財産(借金)が大体同じくらいかもしれないといった場合も、相続放棄をするのが、無難でしょう。
また、故人が他人の連帯保証人になっている場合も、何もしないでいると、相続人は相続によって、故人の連帯保証人の立場を引き継いでしまいますが、相続放棄をするとその責任も免れることができます。
ただし、故人(父親)が借金をしていて、相続人(息子)が連帯保証人になっている場合は、相続放棄をしても、相続人の連帯保証人の責任は免れません。故人(父親)が亡くなったからといって、元々連帯保証人だった相続人(息子)の立場は、何も変化がないからです。
《手続きと費用》
手続き
1.3ヶ月以内にする必要があります。
ただし、マイナス財産(借金)が総額でいくらあるのか、調査するのにとても3ヶ月では無理な場合などは、期間延長の申出をすることができます。
また、故人の死亡後3ヶ月の間、まったく支払いの督促などがなかったのに、3ヶ月経過後、いきなり借金の支払いを請求される場合もあります。このほか、相続人が故人の借金や連帯保証人になっていた事実について、知らなかったことにつき、正当な理由がある場合は、3ヶ月の期限が過ぎていても、相続放棄が認められる場合があるので、その場合は、あきらめずに一度、専門家である司法書士などに相談しましょう。
2.複数の相続人がいる場合に、全員ですることもできますし、1人だけすることもできます。
3.故人の住所地を管轄する家庭裁判所で申出の手続をします。
4.申出の手続は、家庭裁判所に出向かなくても郵送ですることができます。
費用
・相続放棄をする人数 × 収入印紙 800円分
例えば、3人が相続放棄をする場合は、収入印紙2400円分
・郵便切手
これは、管轄の裁判所によってまちまちですが、書類のやりとりにかかる程度なので、多額にはなりません。
必要書類
相続放棄の申述書 1通
申述人(申出人)の戸籍謄本 1通
故人の除籍(戸籍)謄本,住民票の除票 各1通
※事案によっては,このほかの資料の提出をお願いすることがあります
※「相続放棄の申述書」に関して、家庭裁判所のホームページで記載例をごらんになることができます。
http://www.courts.go.jp/saiban/syurui/kazi/kazi_06_13.html